映画「ファインディング・ニモ」感想・考察:子どもの安全を守るだけが良い父親か?
今回は、ディズニー・ピクサー映画「ファインディング・ニモ」についてお話していこうと思います。
オモチャ、虫、モンスターと、独創的な視点からファンタジー溢れる魅力的な世界観を描いてきたピクサー。そんなピクサーが次に挑んだのは魚の世界。
広大な海の冒険を通じて、親子の絆が深くなるハートフルな物語です。
概要
原題/邦題:Finding Nemo/ファインディング・ニモ
公開日:(米)2003年5月30日 /2003年12月6日(日)
上映時間:100分
あらすじ
カクレクマノミのマーリンは、息子のニモとサンゴ礁の中で平和に暮らしていた。
昔妻と卵を巨大な魚に襲われたトラウマで、マーリンは唯一生き残ったニモに対して度が過ぎるほど過保護になっていた。
今日はニモの初登校日。気前良く見送るつもりだったが、ドロップオフに行くと聞いて取り乱す。退屈な授業中、ニモと他の魚達はこっそり抜け出した。
クラスメイトが海の外側に出る遊びを不安そうに見つめていたニモを見て、マーリンは叱りつける。
自分の話をろくに聞かずに怒鳴るマーリンに怒ったニモは、向こうに見える船の方まで泳いで行ってしまう。
すると突然、ダイバーが現れニモを攫って行った。
ニモを救うため、マーリンは広大な海を冒険することになるのだが……
スタッフ
監督:アンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチ
脚本: アンドリュー・スタントン、ボブ・ピーターソン、デヴィッド・レイノルズ
制作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:トーマス・ニューマン、ロビー・ウィリアムズ
キャスト
マーリン:アルバート・ブルックス/木梨憲武
ドリー:エレン・デジェネレス /室井滋
ニモ:アレクサンダー・グールド /宮谷恵多
クラッシュ :アンドリュー・スタントン /小山力也
感想・考察
画面広がる海の世界に圧倒!
当時CGではまだ挑戦されていなかった海の世界。
そこにピクサーは挑んでいきました。
画面に広がる広大な海の描写に思わず息を飲みます。実写と言われても分からないぐらいのリアルさ。特に海流のうねりとか本当凄いと思います。
魚達の動きについても相当研究されているみたいですが、魚らしさを失わずにあんなに魅力的で可愛いキャラクターを生み出せるなんて、ピクサー様様です。
引き合いに出すのは良くないですが、ドリームワークスの「シャーク・テイル」に登場する魚とか全然可愛くないですからねぇ(笑)キャラデザで媚びようとしないドリームワークスは、それはそれで好きですが。
良い父親とは何か
この物語は、主人公・マーリンが冒険
物語の序盤で、怒ったマーリンは言うことを聞かないニモに対して、ついこんなことを言ってしまいます。
「自分にはできるつもりでも、無理なんだよニモ!」
自分の親に「お前はできない」と言われたら子どもはどんな気持ちになるでしょうか?
マーリンはニモが大事なあまり、息子に危険な目に遭わせたくないしつい過保護になってしまいます。
ですが、「この子はまだ未熟だから何もできない」と決めつけ子どもの行動を制限してしまうことは、自分の子どもの可能性を狭めてしまうことに繋がるかもしれません。
ウミガメのクラッシュは、マーリンとは対照的な父親像です。
アンドリュー・スタントン自身も、クラッシュに理想的な父親像を投影したと語っています。
息子のスクワートが海流から外れて迷子になってしまっても、クラッシュは慌てません。自分の息子であるかの様に心配するマーリンに対して、「まぁ見てなって」と余裕を見せます。
すると、スクワートは無事海流に戻ってきました。「面白かった~!」とへっちゃら顔なスクワートに息子の成功を誉めてあげるクラッシュ。
不思議がるマーリン。ウミガメの子どもは砂浜に卵を置いてきても海に戻ってくるという話を聞いてさらに驚きます。
「ででででも、ほっといたって平気って、どうして分かるんだい?」
「んなこと分かんねーけどさー、子どもが平気なら平気ってことだ」
クラッシュの言葉を聞いてマーリンは茫然とします。
クラッシュは子どもを放置してる無責任な父親ではなく、子どものことを信用してるからこそ多少危険な目にも遭わせられるし、成長を見守る度量の深さを持っています。
さらにマーリンは、「あの子には何も起きないようにするって約束したのに…」という呟きに対して、ドリーにこう言われてしまいます。
「うーん…おかしな約束ね。だって、子どもに何も起きないようにしたら、子どもは何もできないわ」
ドリーの言う通りで、子どもに何もさせないであげていたら、子どもは親無しでは何もできない人間に育つかもしれませんよね。
この映画は、アンドリュー・スタントン監督の「良い父親とは何か?」という疑問から生まれました。
まだ幼い子どもと一緒に道を歩いていた時、「こら、そっちに行くな、危険だから」とつい小言を口挟む自分に対してハッとしたそうです。
そんな監督自身の経験も踏まえているからこそ、「ファインディング・ニモ」は良い父親像とは何か?という問いについて深く掘り下げられているんですね。
マーリンの思い込み
マーリンは自分の息子、ニモ以外のことでも自分の経験から物事を決めつけがちです。
ですが海での大冒険を通じて、マーリンは自分の思い込みは間違っていた、という経験を何度もします。
まずは、サメは魚をすぐに食べる凶暴な生き物ということ。間違ってはいないのですが、この映画に登場するサメのブルース達は本当は魚の仲間に入りたがっていました。
ですが自分達は他の魚に恐れられている。だからイメージを変えようと、まずは自分達から行動を起こしているわけですね。
次に、クラゲは危険だということ。クラゲの大群に遭遇してびびりまくるマーリンですが、クラゲの上をボヨンボヨン跳ねるドリーを見て、クラゲの上を通れば平気だということに気付きます。
次に、ドリーはクジラ語は喋れないということ。懸命に(少し耳障りな)クジラ語を話してクジラと話そうとするドリーに対して、マーリンは「君には喋れないんだ!」と怒鳴ってしまいます。
実はクジラには伝わっていて、ドリー達をシドニーまで運んでくれていました。
誰でも多かれ少なかれハンデを持っている
ハンデや障害については次作「ファインディング・ドリー」の方が濃く描かれている気がしますが、「ファインディング・ニモ」でもハンデを抱えたキャラクターが登場します。
ナンヨウハギのドリーは、健忘症という言葉で片付けられないほどの忘れん坊ですよね。ツノダシのギルは、右半身にかなりの傷を負っています。
後ニモの初登校のシーンで同級生がニモの小さな肩びれを見て「変なの」とからかった時手に変な汗をかいたのですが、その後「私は足の一つが小さいの」「僕は水アレルギーなんだ」と自分の弱みを打ち明けているところが凄く良いなと思いました。
(てか魚で水アレルギーって大丈夫なのか…)
最後に
いかがでしたでしょうか?
「ファインディング・ニモ」は父親としての息子との向き合い方、自分のものさしだけで物事は図れないことなど、多くのことを教えてくれる物語だと思います。
皆さんも是非、マーリン達と一緒に海の冒険に出てみてはいかがでしょうか?