映画「クロース」感想・考察:ある1通の手紙から始まった、サンタクロースの誕生秘話
今回は映画「クロース」についてお話していこうと思います。
サンタクロースはなぜ贈り物を始めたの?なぜ沢山オモチャを持っているの?世界中にその存在を知られていながらも謎多きサンタクロースの誕生を、独特の視点から描いた心温まる物語です。
タイトルを聞いたことがない方もいるかもしれませんが、この作品はNetflixにて限定公開されている映画で、スクリーン上映はされていないんです。
ですが作品のクオリティはそこらの映画顔負けと言っていいほどで、第73回英国アカデミー賞アニメ映画賞受賞、さらには第47回アニー賞ではディズニー映画「アナと雪の女王2」「トイ・ストーリー4」を差し置いて、アニメーション作品賞を含む最多7部門で最優秀賞を受賞する等、世界規模で太鼓判を押されています。
概要
原題/邦題:Klaus/クロース
公開日:2019年11月15日
上映時間:98分
あらすじ
郵便局長の息子のジェスパーは、真面目に働く気が無く職場をサボってはクビになり、贅沢な暮らしを楽しんでいた。
そんな息子を見兼ねた父親は、ジェスパーを遠い遠い北極圏近くにあるスミレンズブルクという町の郵便局員に命じる。更には、郵便物を6000通配達し終えるまで帰って来てはならないと言い渡した。
嫌々ながらも海を渡り、スミレンズブルクにやって来たジェスパー。陽気な船乗りの言われたままに町の鐘を鳴らすと、武器を持った住人が一斉に飛び出して来て喧嘩を始めた。
ここスミレンズブルクは、クリム族とエリングボー族が代々憎しみ合ってきた、争いの絶えない町だったーー。
スタッフ
監督:セルジオ・パブロス
脚本:セルジオ・パブロス
監督を務めるのは、イルミネーション作品「怪盗グルーの月泥棒」の原案を担当した
セルジオ・パブロスです。
キャスト
ジェスパー:ジェイソン・シュワルツマン(吹替:内山昂輝)
クロース:J・K・シモンズ(吹替:玄田哲章)
アルバ:ラシダ・ジョーンズ(吹替:中村千絵)
モーゲンス:ノーム・マクドナルド(吹替:斉藤次郎)
ジェスパーの声を務めるのはコメディ俳優のジェイソン・シュワルツマンです。
吹替は「ソウル・イーター」や「ハイキュー」等人気作品に多数出演している内山昂輝さんです。
クロースの声はJ・K・シモンズが担当しています。アニメーション映画の声優としても活躍していて、「ズートピア」のライオンハート市長、「カンフー・パンダ3」のカイ等も演じています。
吹替をされているのはベテラン声優の玄田哲章さんです。出演作品をあげたらキリがありませんが、同じアニメーション映画だと「くまのプーさん」のティガーでの声が特に聞き馴染みがあるのではないでしょうか。
感想・考察
サンタクロースの始まり
この作品に登場する、サンタクロースの始まりとなる存在のクロースですが、正体は普通の人間で、大柄な髭を生やした木こりです。
クロースには悲しい過去がありました。彼にはリディアという名前の妻がいました。子どもが沢山欲しかった二人はオモチャを作って待っていましたが、子どもに恵まれませんでした。それから妻は病気になり、この世を去ってしまいました。
サンタクロースを題材とした作品は山ほど溢れていますが、サンタクロースを実寸大の人間として描き、更にはここまで人間味溢れ感情移入できる様なキャラクターに仕上げているのは凄いなと思いました。
クロースが元々サンタクロースなのではなく、人間であるクロースが、物語を通じて本物のサンタクロースの様な存在になっていくのです。
所々にサンタクロースに要素が散りばめられているのがまた面白いです。
例えば、クロースの笑い声が「ホーホーホーゥ」だったり(ジェスパーからは変な笑い方って言われます)、子どもにプレゼントを持って行く際煙突から入れと命令したり。トナカイの手名付け方も見事です。
だらしないボンボン主人公、ジェスパーの成長
ジェスパーは最初、自堕落な金持ちの暮らしに甘んじているボンボン息子として描かれています。シルクが恋しいだのクルトンが無いだの我儘言ってばかりです(シルクに関しては最後の方にも言ってて笑ってしまいました)。
父親にほぼ勘当のような形でスミレンズブルクに行くことになるわけですが、意外と根性あるなぁと思います。
ズルをせず何とか手紙を集めようと必死に奮闘しますし、1軒1軒のポストを周ったり歩いている人に直接手紙をねだってみたり。
まぁその努力は水の泡となってしまうのですが……
地図は×だらけになり手紙を集める目途が立たず途方に暮れていた時も、町の外れにある木こりが住む一軒家のために、馬を引きながら向かいますからね。あの時のジェスパーにとっては唯一の頼みの綱に思えたのかもしれません。
クロースの指示にもちゃんと従いますからね。怖い番犬に襲われそうになったり、鶏に追いかけられたり、身体に暖炉の火がついてもクロースの指示通り煙突の上からプレゼントを届けます。結構体張ってますよね(笑)
オモチャが欲しい子どもを利用して手紙を集め始めるのですが、この手紙回収シーンがやけにかっこよくて好きです。
ジェスパーの行動は子ども達、そして周りの大人たちの行動を変えていきます。
そしてジェスパー自身も成長していくのです。
サンタクロースは言葉の壁を超える
今作品で印象的なのは、サーミ族の少女、マルグの存在です。
彼女はよそからやって来た女の子で、言語もスミレンズブルクの人達やジェスパーとは違く、何を話しているのか分かりません。ここで言葉の壁という障害が発生します。
字が書けない=手紙が書けないから最初相手にしなかったジェスパーですが、あまりにも根気強く家に来るのでアルバの学校で字を教え手紙を書かせてあげます。
プレセントをそっと置きに行くジェスパーとクロース。そりに乗ってはしゃぐマルグを遠くから見た二人は、心の底から笑顔を見せます。
サンタクロースは世界中を飛び回る全国共通の存在ですが、マルグやサーミ族の存在を通じて、サンタクロースって言葉の壁を超える存在なんだなぁと思わせてくれます。
欲の無い行いは、人の心を動かす
「欲の無い行いは人の心を動かす」妻がよく言っていた言葉を受け売りにしているクロース。
この物語は、欲の無い行いによって人々の行動が変わっていきます。
クロースは、オモチャを貰った子どもの笑顔に感動し、長年封印していたオモチャ作りを始めてプレゼント配りを始めます。
アルバは教師になったもののここでは誰も教育を求めておらず、町を出るために必死にお金を貯めていました。ですが、自分の字が書けることに興奮を覚え「もっと教えて!」とせがむ子ども達に胸を打たれ、貯金を使い果たして子ども達のために教材等を買っていきます。
恐らく、というか確実に給料は払われていないでしょう。ですがアルバの表情は魚売りをしていた時に比べてとてもイキイキとしています。
サーミ族の人々は、子どもにソリをくれたことに感謝し無償でクロースの工場でオモチャ作りを手伝いします。
まさに欲の無い行いこそが、人の心を動かしているのです。
だからこそジェスパーは立場が無いですよね。だって自分は、早く郵便物を集めて元の贅沢な暮らしに戻るためにプレゼント配りを始めたわけですから。
自分の本当の目的がバレてしまい、ジェスパーは皆から失望されてしまいます。
罪悪感を覚えたジェスパーは、前の家に戻る船から自ら降りて、クロース達の元に戻ろうとします。
ちょうどその時、元の古き伝統を取り戻そうと手を組んだクラム族とエリングバー族がオモチャを狙いにやってきていて、危機を感じたジェスパーは命がけでオモチャを守ろうとするのです。
ジェスパー達を追いかける際、対立していた崖から、クラム族とエリングバー族の子どもは、崖から落ちそうになったのを咄嗟に助けたことによって恋心が芽生えます。
「欲の無い行いが人の心を動かす」というのは作品全体のテーマにもなっており、登場人物の欲の無い行いの連鎖によって、物語が展開していくところが、この作品の特徴です。
クロースはどこに消えた?
ジェスパーがクロースと共にクリスマスのプレゼント配りを始めてから年月が経ったある日。
揺らめく風と雪を感じたクロースは「迎えに来たのか」と呟きます。
そして、持っていた斧を置き、ふわっとどこかに消えてしまいました。
クロースがどこに消えたのかは誰も知りません。
けれでもジェスパーには分かっているのです。
彼が、毎年のクリスマスに現れて子ども達にプレゼントを配っていることを。
だからジェスパーは、二人分のミルクとクッキーを用意して、赤い恰好をした友人を静かに待つのです。
最後に
とある欲のない行いで子ども達にオモチャを配り始めた一人の木こりがサンタクロースの始まりだったとしたら、凄く素敵だなぁと思いました。
心が暖かくなる、誰かに優しくなれる作品です。